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横浜地方裁判所 平成8年(行ウ)5号 判決 1998年3月30日

神奈川県川崎市川崎区大島三丁目三八番七号

原告

有限会社七五三企画

右代表者代表取締役

松本寿美子

右訴訟代理人弁護士

佐藤修身

神奈川県川崎市川崎区榎町三―一八

被告

川崎南税務署長 虎谷武治

右指定代理人

加藤裕

堀久司

宇山聡

田中豊

木上律子

久保寺勝

菅野勝雄

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、平成五年三月三一日付けでした原告の平成三年一月から同四年三月までの各月分の源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分並びに平成四年四月から同年六月までの各月分及び同年八月分の源泉徴収に係る所得税の各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分をいずれも取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、被告により、大韓民国(以下「韓国」という。)所在の財団法人国際技能開発協会(以下「協会」という。)から韓国の芸能人の派遣を受け、これを国内のクラブ等にあっせんするなどし、協会に対し日本国内における人的役務提供の対価として金員の支払をしているから、教会に対する国内源泉所得の支払をする者として源泉徴収義務を負うとされ、源泉徴収に係る所得税の納税告知処分等を受けた原告が、協会からの依頼により外国人芸能人の日本における出演先の調査をしてその結果を報告し、出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」という。)に基づく外国人芸能人の入国・在留審査等の申請の代理義務を営むものにすぎず、「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国と大韓民国との間の条約」(以下「日韓租税条約」という。)に規定する独立の地位を有する代理人に当たるから、源泉徴収義務を負わないなどとして、これを争っている事案である。

二  争いのない事実等

1  所得税法は、外国法人は、同法五条四項及び七条一項五号により、同法一六一条に定める国内源泉所得のうち、同条一号の二から七号まで又は九号から一二号までに掲げるものの支払いを受けるとき、所得税を納める義務があるものとし、同条二号は、国内において人的役務の提供を主たる内容とする事業で政令に定めるものを行う者が受ける当該人的役務の提供に係る対価を国内源泉所得の一つと規定する。そして、所得税法施行令二八二条一号は、右政令に定めるものとして、「映画若しくは演劇の俳優、音楽家その他の芸能人又は職業運動家の役務の提供を主たる内容とする事業」を規定している。

また、日韓租税条約六条(1)は、「一方の締約国の居住者又は法人は、他方の締約国内に恒久的施設を有しない限り、その産業上又は商業上の利得につき当該他方の締約国において租税を免除される。」と規定し、他方、同条(2)は、「一方の締約国の居住者又は法人が他方の締約国内に恒久的施設を有する場合には、その恒久的施設に対し、当該他方の締約国内の源泉から生じたその居住者又は法人の全所得につき当該他方の締約国において租税を課することができる。」と規定している。そして、「恒久的施設」とは、事業を行う一定の場所であって一方の締約国の法人がその事業の全部又は一部を行っているものをいうとされ、「事業を行う一定の場所」には事務所、店舗、その他の販売所等が含まれるとされる(同条約四条(1)及び(2))。しかし、右のような意味での恒久的施設を有しない場合においても、同条約四条(4)(b)は、居住者又は法人が、他方の締約国内で、同条約一二条(4)に規定する芸能人の役務、すなわち「演劇、映画、ラジオ又はテレビジョンの俳優、音楽家、運動家その他の芸能人がこれらの者としての人的役務」を提供する場合には、当該他方の締約国内に恒久的施設を有するものと規定する。

なお、同条約四条(5)は、「(4)の規定ににかかわらず、一方の締約国の居住者又は法人は、真正な仲立人、問屋、運送取扱人、保管人、その他の独立の地位を有する代理人でこれらの者としての業務を通常の方法で行うものの約務を他方の締結国内で利用しているという理由のみでは、当該他方の締約国内に恒久的施設を有するものとされることはない。」と規定する。

2  原告の協会に対する支払総額、被告の原告に対する源泉徴収すべき所得税の納税告知処分(以下、「本件納税告知処分」という。)及び不納付加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、これらを併せて「本件処分」という。)並びに原告の異議申立、審査請求とこれらに対する決定、裁決の結果は、別紙一、二記載のとおりである(弁論の全趣旨)。

三  争点

本件の主たる争点は、原告の業務の事態は、外国法人である協会から韓国の芸能人の派遣を受け、その対価を支払い、これを原告が出演契約を結んだ日本国内のクラブ等に出演させること等を主たる業務とするものであるかどうか、その結果、原告は、協会から日本国内において人的役務の提供を受け、その対価としての金員を協会に対して支払っていることになり、所得税法二一二条一項の源泉徴収義務を負うかどうかであり、そのほかの争点は、原告は、もっぱら、協会のために入管法上等の代理義務を行うものであり、日韓租税条約四条(5)の「独立の地位を有する代理人」に当たるので、協会は、同条約四(5)により、「他方の締約国内に恒久的施設を有しない」こととなり、その結果、原告は、右金員の支払いについて、源泉徴収義務を負わないことになるかどうかである。

これらの点に対する双方の主張は、以下のとおりである。

1  原告の業務の実態ついて

(被告の主張)

(一) 日本における出入国の管理については、入管法が規定している。すなわち、同法によれば、在留資格及び在留外国人が本邦において行うことができる活動は、限定されており(入管法二条の二項及び別表一の二)、上陸の申請に対する審査における在留資格の審査基準は、同法七条一項二号の基準を定める省令(以下「基準省令」という。)に規定されている。そして、基準省令の「興行」の在留資格に係る要件及び出演先施設に係る要件が規定されており、また、外国人が「興行」活動を行おうとする場合、在留資格認定証明書の申請を代理人として行える者は、当該外国人を招へいする本邦の機関又は当該外国人が所属して芸能活動を行うこととなる本邦の機関の職員であり(出入国管理及び難民認定法施行規則(以下「入管法規則」という。)六条の二第三項及び別表四)、申請に当たっては、外国人芸能人と招へい機関との間の契約書、招へい機関と出演先施設との間の契約書、職業芸能人としての実績に関する文書等当該外国人が本邦において行おうとする活動に応じて必要な資料を提出しなければならない(同規則六条の二第二項及び別表三)。すなわち、入国審査においては、外国人芸能人、招へい機関及び出演先の業務内容を右資料によって把握し、適正な興行活動が行われるか否かの判断等をすることになる。

以上のとおり、外国人が「興行」の在留資格で本邦において活動する場合には、招へい機関は、外国人芸能人と雇用契約を結んだ受入機関として、また、入管法七条の二第二項に基づき外国人芸能人の代理人となって在留資格認定証明書交付申請を行う者として、重要な役割を担うこととなっており、入管法で認めている外国人芸能人の招へい機関の事業形態は、外国人芸能人が招へい機関と契約を結び、かつ、招へい機関が出演先と契約を結ぶものであって、これ以外を予定するものではない。そして、現実にも原告は、後述のとおり、韓国から芸能人を招へいするに当たって、入管法上必要とされる原告と芸能人との間の契約書及び原告と出演先との間の契約書を作成しており、出演先が招へいに際して基準省令の要件を満たすか否かの調査をするなどしているのである。

(二) 原告の業務の実態についてみると、原告と芸能人の出演先であるクラブ等との関係は、次のとおりである。原告代表者は、クラブ等の一応の要求に基づき協会が集めた芸能人に韓国で面接するなどして、招へいする芸能人を選択、決定しており、芸能人の出演先であるクラブ等が入管法の規定する基準を満たすか否かを調査し、クラブ等との間で出演請負契約書を作成し、芸能人の生活状況の管理をするなどしており、また、芸能人の役務提供の対価(出演料)について、クラブ等に対し、月ごとに、原告の名において、請求書や領収書を発行し、クラブ等から支払いを受けた出演料を売上として記載している。さらに、原告は、従来、自らの事業種目を芸能プロダクションと記載した法人税の確定申告書(乙六ないし八号証)において、クラブ等に対する売上げ(出演料収入)の総額を売上高、収入として計上し、他方、クラブ等から支払いを受ける際に源泉徴収された所得税額(所得税法一七四条一〇号、二一二条三項参照)について、法人税額から当該源泉徴収された所得税の額を控除するなどしている(右確定申告書別表六(一)「その他に係る控除を受ける所得税額の明細」欄参照)ほか、控除しきれなかった金額について、還付の請求をしている(法人税法六八条一項、七九条一項参照)。これらによれば、原告は、政令に定める芸能人の役務の提供を内容とする事業を営んでおり、クラブ等との間で右役務提供に関する契約を締結し、その報酬又は料金の支払いを受けていることが明らかである。そして、原告が行っている右の業務は、原告が、協会又はクラブ等が行うべき業務をこれらに代わって行っているのではない。

原告は、クラブ等が協会から芸能人の派遣を受けているのであって、原告は、協会に代行してクラブ等から出演料を集金し、そのうち、手続代行に係る手数料を引いたり残りを協会に渡しているに過ぎないというが、その「手数料」なるものを授受する起因となる手続代行の内容及び金額について、原告と協会との間であらかじめ何らかの取決めもされていないというのは不自然であり、原告のいう右「手数料」は、原告が協会から芸能人の派遣を受け、クラブ等に役務を提供することによって原告に生じる粗利益を指しているものと認められる。

また、原告と協会・芸能人との関係については、原告は、前述のように韓国に渡って芸能人の選択・決定をしてはいるが、芸能人と直接取引をすることはなく、協会と取引をしており、教会に対しては、別途、派遣された芸能一名に対し、毎月定額の手数料を支払っている。原告は、クラブ等からの入金の前に、協会に金員の支払い(立替払い)をすることがあり、前述のように、原告との間には、原告が受け取る手数料に関する定めはなく、クラブ等からの入金額と協会への支払額との差額が原告の粗利益である。そして、協会は、日韓租税条約に関する届出書(本件において、本来、同条約上は、無意味なものであるが)を被告に提出しているが、それは原告を経由しており、協会が原告に対し芸能人の役務を提供し、原告がその対価を協会に支払うものである旨が掲載されている。

これらによれば、原告は、単なる協会の代行者ではなく、自己の計算において、協会から芸能人の派遣を受け、その人的役務提供の対価として協会に対し金員の支払いをしていることが明らかである。

なお、原告は、自らタレントを抱えたいわゆる芸能プロダクションではないことを強調する。しかし、所得税法二一二条三項、一七四条一〇号は、内国法人に対し「政令で定める芸能人の役務の提供を内容とする事実に係る当該役務の提供に関する報酬又は料金」の支払いをする者を源泉徴収義務者と規定しており、右報酬又は料金とは、不特定多数の者から受けてるものを除き、芸能人の役務提供に関して受ける対価たる性質を有する一切のものをいうのであるから、それには、他の者に芸能人の出演のあっせんをすること等により受ける対価が含まれることは明らかである。被告は、これらの支払いを受ける者をいわゆる芸能プロダクションと呼称したにすぎない。したがって、専属の芸能人を持つ「芸能プロダクション」ではないことをもって源泉徴収義務者とはならないとする原告の主張は、失当である。そもそも、本件訴訟において、当初、原告は、自らの業務について、「韓国所在の協会を通じて韓国から芸能人を国内に招へいし、これを国内のクラブ等にあっせんすることを業としている」旨主張していたものである。

(原告の主張)

(一) 原告は、協会からの要請を受け、韓国の芸能人の日本における出入国等の手続代行を行う独立した地位を有する代理人である。すなわち、まず、国内のクラブ等から協会に対し芸能人の出演派遣依頼がされると、協会から原告に対し、クラブ等の出演先の調査要請がされ、これを受けて、原告は、施設や経営状況等を調査し、その結果を協会に報告する。また、芸能人の出入国に関しては、芸能人や協会は、ビザの申請ができないので、原告は、入管法上必要とされる手続の代理業務を行う。他方、協会は、芸能人を募集し、その結果を出演先に連絡し、クラブ等の経営者が資料を参考に芸能人の最終決定をする。このように、協会から役務の提供として芸能人の派遣を受けるのは、クラブ等の出演先であり、原告がクラブ等と出演契約を結ぶことはあり得ず、原告は、協会に代行してクラブ等から出演料を集金し、そのうち手続代行に係る手数料を引いた残りを協会に渡しているにすぎない。被告は、このような代理業務を行うという原告の業務実態を誤解し、原告を芸能プロダクションとみなしているところに、大きな誤りがある。

(二) 被告は、原告が作成し、入国管理局に提出した原告の帳簿等(乙二号証、九号証)や被告に提出した確定申告書(乙六ないし八号証)の記載をもって、原告の業務実態の主張をするが、これらは、原告の前任の顧問税理士の、原告を芸能人プロダクションとするなどの誤った指導や被告が主張するような芸能人の出入国についての入管法上の要件を満たす必要等から作成されたものであり、原告の業務実態を正しく反映したものではない。原告は、現在では、税務当局に対しては、入国管理局に示すものとは別途に、クラブ等に対する売上げではなく、自らの手数料のみを収入として計上した正しい確定申告書を提出しているものである。なお、原告が被告主張の所得税の還付請求をしたのは、協会がわざわざこのような手続をすることの労を省くため、協会の代理人としてこれをしたものであるから、この点に関する被告の主張も、理由がない。

平成元年一二月ころ、それまで中断されていた韓国芸能人の来日が再開されたが、再開後は、給料未払い等のトラブルを防止するため、芸能人とクラブ等の直接契約ができなくなり、協会をはじめとする韓国側で出演の調査等をすることになった。すなわち、韓国側が芸能人を確保していて、日本の出演先からの依頼で芸能人を送り出すシステムになった。ここに原告の存在理由があるのであり、それはまた、手続の代行を行うにすぎないものである。

2  日韓租税条約における「恒久的施設」について

(被告の主張)

日韓租税条約六条によれば、日本国内の源泉所得について、韓国の法人である協会に対し、租税を課することができるか否かは、協会が日本国内に恒久的施設を有するか否かによって決まることになる。そして、同条約四条(4)(b)によれば、法人が他方の締約国内において、同条約一二条(4)に規定する芸能人の役務を提供をする場合には、他方の締約国内に恒久的施設を有するものとされるから、本件において、被告は、協会に対し、課税することができることになる。

原告は、日韓租税条約四条(5)を根拠に、原告が独立の地位を有する代理人であるから、協会は、他方の締結国内に恒久的施設を有することにならない旨主張するが、以下のとおり、その主張自体失当である。同条約四条の(a)と(b)は、同じく恒久的施設を有するものとされるが、その趣旨を異にする規定である。すなわち、(a)は、法人等が他方の締約国内において、代理人を通じて、つまり、代理人の行為により事業を行う場合、代理人といういわば人的施設の特色に着目して、これを、恒久的施設を有するとしたのに対して、(b)は、法人等が他方の締結国内において提供する役務に着目したものであり、提供する役務の特質から、恒久的施設を有するものとしたものである。同条(5)は、右のうち、(a)の規定を射程とする確認規定であり、その趣旨は、従属的な代理人は恒久的施設とするが、本来の独立的な代理人等は、恒久的施設としないことを明らかにした規定であると解される。なぜなら、法人等が他方の締約国内で、特定の顧客に従属することなく、媒介、仲介等の商行為を独立して営んでいる者のサービスを利用する行為は、もっぱら商取引の便宜によるものと考えられるから、これらの代理人を恒久的施設として課税する必要はないからである。これに対し、(b)は、提供する役務の性質から、恒久的施設を有するとしたものであり、代理人に関しない規定であるから、同条(5)とは、関係を持たない規定である。芸能人の役務の提供については、役務提供自体の代理人は通常考えられないことからしても、右のように解されるといえる。

(原告の主張)

日韓租税条約四条(5)の規定及び原告の業務の実態によれば、協会は、日本国内において恒久的施設を有するものではないことになるから、被告は、協会ひいては原告に対し課税することはできない。この点に関する被告の主張は、原告と協会との関係や原告の業務実態を離れた、条文上の文面解釈に終始しており、独自の見解であって、理由がない。前述のように、平成元年一二月ころから、韓国政府の指導・監督のもとに再開された芸能人の役務提供の手続・実態に着目すれば、韓国以外との国との間では、通常考えられない代理が正に、韓国との間では、通常であることが、明白である。

3  本件処分の根拠のついて

(被告の主張)

協会は、原告から日本国内における人的役務提供の対価として金員の支払いを受けているのであるから、所得税法五条四項及び七条一項五号により、右金員について、国内源泉所得として所得税の納税義務を負い、外国法人に対し、国内において所得税法一六一条二号の国内源泉所得の支払いをする者は、その支払いの際、その国内源泉所得について所得税を徴収し、その徴収の日の属する翌月一〇日までに、これを国に納付しなければならない(所得税法二一二条一項)。そして、所得税法一六一条二号に規定する「人的役務の提供に係る対価」には、支払者が、当該人的役務を提供する者の当該役務を提供するために要する往復の旅費、国内滞在費等の費用を負担する場合には、その負担する費用も含まれる(所得税基本通達一六一―八)。したがって、協会に対し、人的役務提供の対価として別紙一の支払総額欄記載の金員(以下「本件金員」という。)を支払った原告は、その支払いの際、これに係る所得税を徴収しなければならない。

そうすると、原告は、本件金員を支払う際、所得税法二一二条一項及び二一三条一項の規定により、本件金員の支払金額に一〇〇分二〇の税率を乗じて計算した所得税額である別紙一の「源泉徴収すべき所得税」欄記載の金額(以下「源泉徴収すべき金額」という。)を源泉徴収し、これを国に納付すべき義務がある。ところで、本件納税告知処分に係る所得税額は、別紙一のとおりであり、それは、右源泉徴収すべき金額を下回るから、本件納税告知処分は、適法である。

また、原告は、源泉徴収すべき所得税額をその法定納期限までに納付しなかったので、被告は、国税通則法六七条一項により、別紙一のとおり、本件納税告知処分に係る所得税額(国税通則法一八三条により一万円未満の端数切捨て)に一〇〇分の一〇を乗じて計算した金額に相当する不納付加算税を賦課決定したものであるから、本件賦課決定は、適法である。

(原告の主張)

原告が協会に対し、被告主張の本件金員を支払ったこと自体は認めるが、その余の被告の主張は争う。

第三争点に対する判断

一  原告の業務の実態について

1  証拠(甲一、二号証、四号証、乙二号証、六ないし九号証、一二、一三号証、証人松本建造、同季富鉄の各証言、弁論の全趣旨)によれば、以下の事実が認められる。

外国人の芸能人が、日本において、「興行」の在留資格で演劇などの興行に係る活動を行って報酬を得るには、入管法上、前記のとおり被告が主張するような要件が必要とされる。すなわち、外国人芸能人の本邦受入れに当たっては、第一に外国人芸能人が「興行」の在留資格で認められる公演の実施によって相応の対価が得られる程度の演劇等に関する能力・資質を有していること、第二に外国人を招へいする機関が外国人芸能人の興行に係る管理能力を有していること、第三に外国人芸能人が実際に出演する施設に舞台装置や客席が十分に備えられている等、外国人芸能人による興行活動が十分に行われる程度の規模・実績を有していることなどが必要とされる。基準省令は、これら申請人に係る要件、招へい機関に係る要件、出演先施設及び報酬に係る要件を細かく規定している。そして、被告主張のとおり、外国人が本邦で興行活動を行おうとする場合、在留資格認定証明書の申請を代理人として行える者は、当該外国人を招へいする本邦の機関又は当該外国人が所属して芸能活動を行うことになる本邦の機関の職員であり、申請に当たっては、通常、外国人芸能人と招へい機関との間の契約書、招へい機関と出演先との間の契約書、職業芸能人としての実績に関する文書、出演先に関する文書等を入国管理局に提出することが必要とされる。

原告は、海外芸能人の招へい等を目的とする有限会社であるが、本件において、韓国の芸能人が本邦に入国するに際し必要とされる右の書類、すなわち、在留資格認定証明書の交付の代理申請をするほか、原告と芸能人との間の契約書及び原告と出演先のクラブ等との間の出演に関する契約書を作成し、自己の名前で、出演先のクラブ等に対し出演料の請求をし、領収書を発行している。また、原告は、クラブ等の出演先ごとの売上帳(乙九号証)や出演先ごとの協会に対する支払総額を記載した帳面(乙二号証)を作成しており、さらに、入国管理局(甲四号証)あるいは、被告(乙六ないし八号証、本件係争年分に係るものを含む。)に対し、クラブ等から受領した出演料を売上げとして計上した決算報告書を法人税の確定申告書に添付して提出している。

2  右に対し、原告は、これからの書類は、税理士の誤った指導や被告主張のように、入管法上、必要ということで入国管理局に提出するために作成されたものであるなど原告の業務の実施とは異なる旨主張する。すなわち、原告は、「原告の業務は、協会の要請を受け、芸能人の出入国の手続の代行を行うもので、協会から役務の提供として芸能人の派遣を受けるのは、クラブ等の出演先であり、原告はクラブ等と契約することはない。原告は、協会に代行してクラブ等から出演料を集金し、そこから手続代行に係る手数料を引いた残りを協会に渡しているにすぎない。平成元年一二月ころ、韓国の芸能人の来日が再開されたが、給料未払い等のトラブル防止のために、芸能人とクラブ等の直接の契約ができなくなった。しかし、韓国側では、出演先の調査、選択ができないために、原告のように、協会の手続の代行を行う業者が必要になったものである。現在では、税務当局に対しては、クラブ等に対する売上げでなく、手数料を原告の収入として申告している」旨主張し、証人松本建造は、概ねこれに沿う供述をする。また、現在、原告の顧問税理士である証人季富鉄も、原告の業務は、自らタレントを抱えたいわゆる芸能プロダクションではなく、サービス代行業務であり、したがって、その売上げは、出演料ではなく、手数料であるから、原告は本件において源泉徴収義務を負わないかのような供述をする。そして、確かに(本件係争年分に係るものではないが)、原告が平成七年七月一八日に被告に提出した平成六年五月一日から同七年四月三〇日までの事業年度の確定申告書(甲三号証)に添付された決算報告書の「販売費及び一般管理費」の欄には、原告がもっぱら入国管理局に提出するために作成したという同年度の確定申告書添付の決裁報告書(甲四号証)における同欄に記載れた「タレント料、タレント手数料、タレント衣装代」等の記載がなく、また、前者の損益計算書の売上高欄には原告のいう「手数料収入」だけが記載されている。なお、甲五ないし七号証は、右甲三号証を作成する基となった平成六年、七年当時の原告の元帳、売上帳及び経費帳であると思われるが、例えば、甲六号証には、原告のクラブ等に対する日々の売上金額、その中から原告がそのつど韓国の協会に支払った金額、さらに前者から後者を差し引いた金額が記載されるなどしている。そして、これらによれば、原告の前記主張が一部、裏付けられるかのようである。

3  しかし、他方、証拠(乙二号証、六ないし一一号証、一四ないし一六号証、証人松本建造、同季富鉄の各証言、弁論の全趣旨)によれば、原告の業務の実態について、以下のような事業が認められる。

原告と芸能人の出演先であるクラブ等の関係については、原告は、クラブ等の要求に基づいて協会が一応選んだタレントに、原告の代表者等会社の者が韓国に行った際に、そのつど、面接する等して、その選別をしている。そして、原告の選んだタレントにクラブ等からクレームがつき、原告が損をすることがある。原告は、クラブ等が入管法の規定する基準を満たすかどうかを調査し、韓国の芸能人の日本滞在中の身元保証をし、生活状況等の管理もしている。原告は、被告主張のように、前述のような名目(出演料)でクラブ等から(原告宛)支払いを受ける際に源泉徴収された所得税額について、法人税額から当該源泉徴収された所得税の額を控除するとともに、控除しきれなかった金額について被告に対し還付の請求をしている。そして、原告は、原告の平成二年五月一日から同三年四月三〇日までの事業年度、同三年五月一日から同四年四月三〇日までの事業年度及び同四年五月一日から同五年四月三〇日までの事業年度(これらは本件係争年分を含む事業年度である。)につき、クラブ等に対する売上金額を確定申告書添付の損益計算書の売上高又は収入として記載し、これに基づき被告に対し、法人税の確定申告をしている。

次に原告と協会及び芸能人との関係については、原告は、韓国の芸能人と直接取引することはなく、協会と取引している。原告は、クラブ等からの入金前に、協会に対し本件金員を支払う(立替払いする)ことがある。原告は、韓国内において、協会に紹介された道具屋や衣装屋に対し、韓国の芸能人が使用する道具代、衣装代を支払っている。原告と協会との間には、原告が主張する「手数料」についての一定の定め(売上金額の何パーセント、芸能人一人に対していくらか等の定め)はなく、クラブ等からの入金額について、そのつど、原告の取り分を決めており、それは、協会の取り分や道具屋等への支払額によって変動する。また、原告は、そのほか、協会に対し、芸能人一人に対し、一万円の手数料を(逆に)支払っている。なお、協会が日韓租税条約に関して被告に提出した届出書(後述のとおり、本件において租税が免除されることはないので、本来、意味のないものではあるが)には、協会は、原告に対し芸能人の役務の提供をし、原告がその役務提供の対価を協会に対し支払うものである旨が記載されている。

4  右3によれば、原告は、結局、自己の計算と責任において、韓国の芸能人を選別しているものというべきであり、原告が最終的に取得する「手数料」なる金員は、単なる協会の業務の代行による、いわゆる手数料とはとうてい認め難く、それは、クラブ等から受領した売上金額から協会に対する支払総額を差し引いたものとして、原告の粗利益ともいうべきものと認められる。

そして、以上の1及び3で認定した事実を総合考慮すると、仮に入管法上の要請から、協会ないし韓国芸能人、クラブ等の出演先、原告という三者の法定関係が、必ずしもその実態を反映していないところがあるとしても、少なくとも、原告は、協会から芸能人の派遣を受け、これを原告が出演契約を締結したクラブ等にあっせんし、クラブ等から出演料を得るなどしたうえ、協会に対し、芸能人派遣の対価を支払っているものと認めるのが相当である。なお、前記認定の事実によれば、確かに、原告は、専属の芸能人を抱えた芸能プロダクションではない。しかし、所得税法は、内国法人に対し「政令で定める芸能人の役務の提供を内容とする事業に係る当該役務の提供に関する報酬又は料金」(所得税法一七四条一〇号)の支払をする者を源泉徴収業務者と規定しており(同法二一二条三項)、「芸能人の役務の提供を内容とする事業に係る当該役務の提供に関する報酬又は料金」とは(不特定多数の者から受けるものを除き)芸能人の役務の提供に関して受ける対価たる性質を有する一切のものをいうと解されるから、その報酬又は料金には、他の者に芸能人の出演のあっせんをすること等により受ける対価が含まれることは明らかというべきである。

右認定に反する前記証人松本建造、同季富鉄の供述は、前掲1、3の各証拠に照らし、にわかに採用することができない。なお、前記認定の、その後、原告が被告に対し提出した法人税の確定申告書に添付した決算報告書(甲三号証)において、「販売費及び一般管理費」の欄に「タレント料」等を記載していないことや売上げとして原告のいう「手数料」を計上していること等については、右確定申告書自体、本件係争年分に係るものではない上、この点をさておいても、法人税の課税上、これらの点が原点の収入ないし経費をどのように捉えるかの問題とはなり得るとしても、本件において、原告が源泉徴収義務を負う者かどうかという判断における前述のような原告の業務の実態の認定を直ちに左右するものではないというべきであるし、甲五ないし七号証の記載についても、同様というべきである。

二  日韓租税条約にいう「恒久的施設」について

原告は、協会からの要請を受け、芸能人の日本における出入国の手続代行を行う独立した地位を有する代理人であるから、日韓租税条約四条(5)の規定により、協会の恒久的施設には当たらず、したがって、協会は、所得税の支払義務を負わず、原告は協会の所得について源泉徴収義務を負わない旨主張する。しかし、原告の業務の実態は前記認定のとおりであるから、右のような独立した代理人とはいえないばかりか、そもそも、乙四号証に照らすと、日韓租税条約(4)(a)、(b)と(5)に関する解釈は、前記被告主張のとおりであり、協会は日本において「恒久的施設」を有するものと解されるから、本件において、協会が所得税の支払いを免れることにはならない。したがって、いずれにせよ、この点に関する原告の主張は、理由がないというべきである。

三  本件処分の根拠について

以上によれば、原告は、外国法人である協会から韓国芸能人の派遣を受け、これを原告が出演契約を締結したクラブ等に出演させること(芸能人のあっせん)を主たる業務としているものであり、原告が出演契約を締結したクラブ等において舞踊等の人的役務の提供を受け、その対価を協会に払っているものと認められる。

そうすると、協会は、所得税法五条四項及び七条一項五号により、本件金員について、国内源泉所得として所得税の支払義務を負い、本件金員の金額を課税標準とし、これに一〇〇分の二〇の税率を乗じて計算した金額が協会に対する所得税の額となる(所得税法一七八条、一七九条)。

外国法人に対し国内において所得税法一六一条二号の国内源泉所得の支払いをする者は、その支払いの際、その国内源泉所得について所得税を徴収し、その徴収の日の属する翌月一〇日までに、これを国に納付しなければならないから、原告は、国内源泉所得である本件金員について、その支払いに係る金額につき源泉徴収する義務がある(所得税法二一二条一項六条)。

そして、以上によれば、本件納税告知処分及び本件賦課決定処分の根拠は、前記被告主張のとおり(別紙一のとおり)であるものと認められるから、本件処分は適法である。

四  結論

よって、原告の本件請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅野正樹 裁判官 近藤壽邦 裁判官 近藤裕之)

別紙一

<省略>

別表二

本件納税告知処分等の経緯

<省略>

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